花冷えの街
ペンネーム悪筆子
行く店もなくなり、車で紙屋さんの前を通り、入り口の小さい椅子に腰掛けてる紙屋さんとお友達の姿を確認する最近、ノートを買いに久しぶりに店に行ってみた。
ノートも鉛筆も使わない、売っていない時代、紙屋さんの広いノートの棚もこれもまた使わなくなった便箋が並ぶ。その中に万葉がな一文字の表紙のがあり、おばさんに聞くと無地なので無という字だそうだ。もう本当に最後に残っていたノートとこの便箋、鉛筆を買う。おばさんがスマホの電卓を叩く間、陳列棚の中の墨の木箱に並ぶ朝鮮の民族衣装を着た色鮮やかな男女の小さな墨に目が行く。お使い物にするそうで五個ほどでてきたとのこと、墨としては大したことないという。ガラスの陳列ケースの上に削用筆と書かれた小筆が並ぶ。芯が鼬の毛でまわりは白い毛である。日本画の筆だが、かなも書けるとのこと。一つ買う。ポチ袋の棚の上に見慣れたヨーグルトの小さなカップが一つ置いてある。お友達がいつも持ってきてくれるとおばさん。
もう月に一度しか近所に買い物に行かない、足が不自由になったおばさん。店の前も中もいつも綺麗に掃除されているがいよいよ殺風景になりつつある店を後に花冷えの街の夕方は暗い。
それでも買い物に行くべく道を歩いてると帰りのおばさんを乗せるべくなぜかタクシーが駅に向かって走っていくというおばさんの話を思い出し少しほっとした。
