子どもに教えるコツ~子どもの書く字は活字調~

土屋彩明
(新潟県見附市)

はじめまして!
今度からこちらのブログで時々記事を書かせて頂くことになりました土屋彩明(さいめい)と申します。

普段は新潟県の見附市というところで、小中学生が中心の書道教室で先生をしております。
子どもたちを教えていて面白かったこと、逆に彼らから教えてもらった楽しいことなどの話をご紹介できたらいいなと思います。
よろしくお願い致します。


さて、うちは子どもが多い支部なので他の先生方から時々「子どもに教えるコツが何かありますか?」と聞かれます。

コツという物でもないですが「大抵の子どもは何も言われなければ活字調の字を書く」というのは、覚えておくと便利かなと思います。
まずこの「活字調の字」というのがピンと来ないかもしれませんね。
ちょっと私が書いてみたのでご覧下さい。

活字と手書き文字1
図1 活字と手書き文字


分かりやすいよう、ついでに本物の活字も一緒に並べてみました。
別に見て書いた訳ではないのですが、Bの「活字調の手書き文字」はAの活字とバランスの取り方がそっくりですね。

大抵の子どもたち(人によっては大人も)は「1日に見る文字のほとんどが活字」という生活をしているので、自然と文字を活字のバランスで覚えてしまうのです。
だからお習字の時にCのようなお手本を与えても、Bのような「活字調」の字を書いてしまうのでしょうね。

ではBとCの字は、具体的に何がどう違うのでしょう?
分かりやすいように、ちょっと「城」と「草」と「木」に補助線を引いてみます。

活字と手書き文字2
図2 活字と手書き文字

四角で囲ってみました。
注目は水色で示した余白です。

Bの字はマス目いっぱいに書いていて余白が少ないですが、Cでは余白が大きいですね。
何故こうなるかというと、書道でいう「美しい文字」の条件の一つに「メリハリがついていること」があるからです。

例えば「城」は七画目の斜め右下がりの線が長くなると格好いいので、Cの「城」の字はこの部分を特に長く書けるよう、他のパーツをやや小さめに書いています。

「草」は下の横棒が長く見えて欲しいので、Cでは一画目の横棒をぐっと短く、下の横棒の半分程の長さにしています。
「木」は左右の払いが長く見えて欲しいので、Cの「木」はやはり他の横長パーツ、つまり一画目の横棒をかなり控えめに短く書いていますね。

こうしてその字の「主役」になるパーツが引き立つよう他の部分を小さく書くので、結果的に字の周囲に余白ができる訳です。

また「春」と「深」は活字だと独特のバランスの取り方をするので、これも手書き文字と形が変わってきます。

活字と手書き文字3
図3 活字と手書き文字


活字だと「横棒が3本ある時は真ん中を短くする」という原則があるので、Bの「春」は一画目がCより長め、二画目は逆に短いですね。

また活字だとサンズイは長方形にまとめますが、手書き文字だとCの「深」のように「くの字形」にします。
そのため、Cの「深」の一画目はかなり中寄せから書き始めていますね。

こうして、活字と手書き文字のどこがどう違うのかが分かっていると、子どもに教える時に教えやすくなる気がします。

どこをどう書いて失敗するかが予測できるので、先手を打つことができる訳ですね。


例えば書き初めでよく課題になる「春」を書く時、筆を持つ前にお手本を見せて
「ここをよく見てごらん。1本目と2本目の横棒が同じ長さでしょう。お習字の時の『春』はこう書くんだよ」
と説明しておくと、これだけで字の雰囲気が変わってきたりします。

もちろん、たくさん失敗して試行錯誤の末に正解にたどり着くのも大事です。
でも、書き初めのように「何十枚も書ける訳ではない」時には、こういう教え方もお互い便利かと思います。
よろしければぜひお試し下さい。