根津美術館の企画展「よめないけど、いいね!」

牽洋


2022年の夏、ネーミングに惹かれた根津美術館の企画展「よめないけど、いいね!」

いつもの書展とちょっと違った根津美術館の「よめないけど、いいね!」牽洋2022



書道を始めるまで、美術館の類とは縁のない生活を送っていた。
小学校の遠足で、歴史民俗博物館に行ったくらいしか記憶がない。

そんな私のような美術館初心者には特に目に止まったに違いないこのポップなタイトル!
このタイトルを見た時、
うん、うん、いいね!
と思った。
そう、そう、そうなのよ!と…
私もまだまだこのポップなタイトル側の人間。


書道を始めたばかりの頃、職場の上司を全書芸展にお誘いしたことがあった。
その時に
「書は読めないからわからんっ」とサラッと放ったことはキョーレツに記憶に残る。

お誘いした身としては、読めなくても何かを感じてもらいたい。感じてもらえるのではないか。感じたことを教えてもらい、次の勉強に活かしたいと思っていたのだが…。

これが書に触れていない普通の感覚…なんだか悲しいが現実だ。

その時の自分には、わからなくても楽しめる要素がたくさんあることを伝える引き出しがあまりにも少なく、もどかしい思いをしたのを覚えている。

これに懲りず、書の素晴らしい世界を少しでも多くの人に知ってもらいたい。自分の引き出しを少しずつ増やしていくためにも、書友や先生方の作品を見て自分の感性のレベルアップを図ろうと試みている。今では、毎年、出品したら新しいゲストを招いて、ゲストの感性を知ることも楽しみになっている。


さてさて、本題。
8月初め、手にとった月刊美術雑誌『美術の窓』2022年8月号(生活の友社)の髙橋利郎氏の連載コーナー「書之扉」。
この企画展について松原茂・根津美術館副館長との対談が掲載されていた。

「絵画の展覧会と書の展覧会では入館者数が変わってくる…書は少ない」
「見てもらうのが第一で、まずは見てもらえば何かを感じてもらえるんじゃないかなと思っている」
「ポップな感じのポスターは、ポストイットカードをペタっと貼ったイメージ」
「解説には、一つ一つ、面白いと感じてもらえそうな豆知識のようなものを加えた」

という主催側の工夫した点が記憶に残り、これらの予備知識を入れて、楽しみにネットで日時指定予約を取り向かった。書道をやっていない友人を連れて。

いつもの書展とちょっと違った根津美術館の「よめないけど、いいね!」牽洋2022



今回の展示作品で特にに時間を割いて見たのは、写経と古筆の20点ほど。

いつもの書展とちょっと違った根津美術館の「よめないけど、いいね!」牽洋2022



いつもであれば、まず作品を見てからキャプションに目をやるのだが、今回は、目線がまず豆知識の解説に向かっていた。

写経は一行に17文字って知ってる?という写経作品からの鑑賞スタート。
グッと興味を惹かれた。
スタートとしてすごくいい豆知識の表記。
これなら書に携わっていない人にも興味をもってもらえそう。
写経の校正・罰金・報酬についての解説もあり楽しい。

続いて古筆のコーナー。
古筆とは、「平安〜鎌倉時代に貴族たちの贈答品としても用いられた古今和歌集や和漢朗詠集など歌集の巻物や冊子のことです」という解説とともに9点の古筆が品よく展示されていた。
全書芸誌でも初級課題で出てくる「伊予切」や古筆の研究課題にもなっている「小島切」や「石山切(貫之集下)」は特に興味深い。

日頃の印刷物では見られない料紙の美しさに触れられるのが本物の古筆を鑑賞する収穫の一つ。

連れは、
もっと作品の時代背景を知りたくなった。
解説が漫画(イラスト)になっていると外国人も楽しめそう。
という感想だった。
私に対しても、「好きなことに出会えて本当に良かったね♡」と。

やはり、今の時代、漫画って強いな。どんどん文字を読まなくなっているから画で伝えることも大切なのか…。でも一字一字目で追いながら読み進めていくのもいいなぁと思っている。

いつもの書展とちょっと違った根津美術館の「よめないけど、いいね!」牽洋2022



人それぞれ
よめないけど、いいね!

と思うポイントが一つでもあれば嬉しい。

よめなくても、いいね!

で書の世界を楽しめるようになると鑑賞する人も増える。
何世紀も前の美しい書作品を鑑賞し続けながら心を豊かにしていける一つの分野。

芸術は、『感じる』が楽しみの極意★


根津美術館
東京都港区南青山6-5-1
(東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」駅から徒歩10分)

いつもの書展とちょっと違った根津美術館の「よめないけど、いいね!」牽洋2022

2022年7月16日~8月21日
企画展
よめないけど、いいね!

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根津美術館の書の名品