ペンネーム悪筆子

出来上がった高層のはずのマンションは高さがなく天井も低く窓も小さい。売り出したもののまだ誰も入らない。それでも解体取り壊しを見ない日はなく、工事は始まってない、マンション建設看板ばかり乱立、門松もしめ縄飾りも姿を消した暮れの街に、正月から一月続く初詣の大渋滞を憂鬱に思いながら筆を買いに行く。

仕入れようか迷ってると言いながらいよいよ空っぽに近い筆を並べた木の箱から二万円の羊毛の筆を取りこれがいいです、条福、行書用と店主が言う。迷っていると暮れらしく飛び込みの客が水引きなど買いに来るので一旦外に出る。

すぐ戻るとまだ昼前だがドアが開かなくなり中に見慣れた店主の兄弟もいる。よく店を手伝っていた方たちである。

これからみんなでお昼に行くと店主。急いで二万円の筆など買う。

家に帰り早速筆を下ろすも、糊がしっかりついてほこりが舞う。古すぎか。しまったと思いつつ、筆の下ろし方を調べてぬるま湯につけながら下ろし吊るして干す。

夜書いてみると今まで味わったことのない書き心地に流石いい筆と納得する。いっしょに買った五千円の筆とネットで買った千円の筆どれもまあまあの書き心地だが、二万円の筆は柔らかくまず筆を使いこなすことから始めないとならない。

紙と違い筆は生きた動物の毛なのでまずそれを御して自分に慣らすようにすることから始めるのかなと思った。

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