近況報告 その2

ペンネーム悪筆子

子供の頃本棚の片隅にあった鰻屋の四角い白いマッチの箱の裏に表の店の名前と同じ書体で安政とあり、不思議に思い聞くと江戸時代からある古い店ということよと教えてくれた。

この店は来客のときに行くことが多く、学校の会合や家でも気軽に出前を頼むことができた。接客はせず厨房でいつも働いていた女将さんが出前もしていた。

家族連れがよく行く店は住宅街の中にあり上の階に座敷もあったが下は大衆食堂のようだった。この店は暖簾分けした店も多くなぜかどことも仲が悪いということだった。この店は今は跡形もなく、アパートが建っている。

鰻屋の裏にはたいてい、黒いプラスチックの小型の盥のような入れ物が積み重なり中に鰻がうようよ泳いでいてホースで水をかけていた。厨房ではまずこの鰻を捌くことから始まっていた。この盥のような入れ物がなくなった頃問屋さんから卸して鰻を出していると聞いたことがある。国産の鰻も減った気がする。

働き者の女将さんが姿を消した頃から鰻屋は観光名所となり近隣の古くからの商店も鰻屋の観光客がターゲットとなり地元の人は近寄らなくなった。

たまに店の前を通り人だかりを見ると寂しくも悲しい複雑な気持ちになるが、ふと子供の頃マッチ箱にあった店の名前の字体が気になりだした。誰か有名人の揮毫なのか古い書体から来ているのか、謎が解けないか考えると少しわくわくする今日このごろである。

近況報告その2ペンネーム悪筆子全書芸